動機づけ面接(MI)

HSPブログ HSPのカウンセリング

(1)動機づけ面接とは

動機づけ面接とは、面接者が対象者の考え方や行動が変化するための援助を行うものです。この面接は、対象者が変わりたい方向を見出し、その方向に変わろうとする対象者に力を添えることを目的としています。面接者は専門家であるわけではなく、対象者が専門家の言うとおりにしなさい、といったやり方ではなく、対象者の話をよく聴き、本人の価値観やなりたい方向を確認し、変化のために具体的に何が必要かを対象者と一緒に考えていく必要があります。また、変化するためには、本人自身が日常生活の中で努力を継続していく必要があります。動機づけ面接では、対象者が具体的な目標を決めることで、変化する方向に向かうための気持ちを強くするように援助していきます。さらに、心の中にある対立する感情を探って解消することによって、具体的な行動を起こせるように援助していくことも目的の一つです。動機づけ面接は、援助者と対象者の共同作業のプロセスであり、コミュニケーションスキルが必要とされるものです。

動機づけ面接は、主に心理学や臨床心理学の分野で用いられる技法であり、対象者を変化させるための具体的な方法を提供することが目的です。この技法は、依存症や不摂生、ストレスなど、健康や生活習慣に関する問題に対してよく用いられます。また、教育現場や職場などでも用いられ、生徒や社員のモチベーションを高めるために活用されています。

動機づけ面接の具体的な手法としては、オープン質問、反射的な聴き取り、肯定的な回答、要約、適切な情報提供などがあります。これらの手法を用いて、対象者が自分自身で変化を実現するための自己決定力を高めることを目指します。また、動機づけ面接では、対象者の自己効力感を高め、自分自身が問題を解決するための資源を持っていることを認識することが重要です。

動機づけ面接は、対象者が変化を実現するための自己決定力を高めるための手法であり、対象者が自分自身で問題を解決するための資源を持っていることを認識させ、自己効力感を高めることを目的としています。

(2)自己動機づけ発言(チェンジトーク)

人が行動や考え方を変えるとき、言葉がきっかけになることが多いと言われています。自分が変わりたいとか、こうしたいという発言が出てくると実際に変わってくることがあります。つまり言葉が行動を変えるのであると考えられます。動機づけ面接は、本人から自分が変わるような発言を引き出していくような面接であり、このような発言を「自己動機づけ発言」(チェンジトーク)と呼びます。こうした発言の種類がそれぞれの頭文字をとって「DARN-C」と呼ばれるため、動機づけ面接ではDARN-Cを引き出していくことが目標とされます。

次に、DARN-Cのそれぞれの内容を確認してみましょう。DはDesire(変化への希望)であり、これまでできなかったことができるようになりたい、などの変わりたいという願望を指します。AはAbility(変化できる能力や自信があるという楽観的な見通し)に関する発言であり、具体的には、今すぐにでもやろうと思えばできるような小さなことをできるということが含まれます。過去の成功体験を述べることもこれに当てはまります。RはReason(変化することの利点)であり、変化することでポジティブな結果がともなってくるという理由を挙げているような発言がこれに当たります。NはNeed(変化しないことへの心配や懸念)であり、「このままでいたら困る。」「このままだと仕事がなくなる。」など、ネガティブな理由を言うことが含まれます。最後にCはCommitment(変化に必要な実際の行動の具体的な計画や考え)に関する発言であり、変化に向けた実際の行動を具体的に考えることが含まれます。

人が変わるためには、変わりたい人がどう変わりたいかを明確に自分の言葉にすることが重要です。そして、どう変われば問題が解決するかを具体的に考え、実際に考え方ややり方を変えることが必要とされます。動機づけ面接では、このような言葉を引き出しながら、実際に行動し、変化への努力を継続することを支援していくことが目的とされています。そのためには、対象者の変わる必要性や具体的な行動を自分ができ、変わることができるという自己効力感を引き出すことが重要なポイントとなります。

(3)五つの原則

動機づけ面接には、五つの原則があります。<1>共感、<2>矛盾を広げる、<3>言い争いを避ける、<4>抵抗を手玉に取る、<5>セルフエフィカシー(自己効力感)を支持するというものです。次に、各原則の内容を確認していきます。

原則<1>である動機づけ面接における共感とは、「対象者の気持ち・感情・思考・価値観を正確に言葉にして聞き返していくこと」です。同情や面接者が同じように感じているということを言葉にすることではなく、「あなたが苦しいのはこれが原因だ」といった解釈や決めつけとも違います。対象者がどういうときにどう感じるのかを面接者が言葉にして映しとっていくことがポイントです。これは面接者の仮説でよいので確認していきます。対象者の変わりたくない気持ち、抵抗、不健康な行動について面接者の感情や価値判断を交えず、言葉にして聞き返していくのです。これは、相互の信頼感を作るうえで重要なことです。

原則<2>は、「矛盾を広げる」というものです。対象者が変化したい方向とは矛盾して、まずいことをやっているということを分かりやすいように示して、対象者の矛盾しているという認識を強めていくことです。これは、現在の行動と、個人的に重要な目標や価値との間に食い違いがあることに気づくことが、変化を動機づけるという考え方です。面接者が対象者の矛盾を直接指摘したり、責めたりするのではなく、基本的には同意して、対象者の矛盾に気づかないふりをしながら、対象者の言葉をそのまま使いながら聞き返していきます。対象者は、自分が言った言葉を聞き返されるのであるから、抵抗は最も少なく、自分が矛盾した発言をしていることを面接者に目前ですぐに再現され、「あれ、自分はそんなこと言ったのか」と考えさせられるようになります。人間は矛盾を感じるとそれを正したくなる傾向があります。面接者ではなく、対象者が変化について語るのを促すということです。

原則<3>は、「言い争いを避ける」というものです。面接では、対象者や面接者が感情的になってしまったり、互いに攻撃的な態度を取ってしまうことがあります。そのような場合でも、面接者は冷静に対応し、対象者に寛容であることが大切です。言葉遣いにも気をつけ、相手を傷つけないようにしましょう。また、対象者が話しやすい環境を整えることも重要です。言い争いが起こらないようにすることで、対象者との関係を良好なものに保つことができます。

原則<4>は、「抵抗を手玉に取る」というものです。対象者が変化を望まないとき、面接者は抵抗を手玉に取って、対象者を変化に向かわせるための戦略を練ることが必要です。抵抗に対する対処法としては、対象者の意見を尊重しながらも、その意見に質問を投げかけて深掘りしていく方法があります。また、対象者に自分で考える時間を与えることで、自発的に変化に向かうように促すこともできます。抵抗を手玉に取ることで、対象者が変化に向かうためのヒントを見つけることができます。

原則<5>は、「セルフエフィカシー(自己効力感)を支持する」というものです。対象者が変化に向かうためには、自信を持って行動することが必要です。面接者は、対象者が自信を持てるような言葉をかけたり、達成した目標について賞賛することで、対象者のセルフエフィカシーを高めることができます。また、対象者が適切な目標を設定し、達成するためのアクションプランを立てることを支援することも重要です。セルフエフィカシーを支持することで、対象者が自信を持ちながら変化に向かうことができるようになります。

(4)四つの戦略

動機づけ面接の戦略,つまり面接者側の具体的な話し方がOARSである。このOARSは,開かれた質問(Open Ended Question),是認(Affirm),聞き返し(Reflective Listening),要約する(Summarize)の英語の頭文字をつなげたものである。次に,OARSのそれぞれについて説明します。

開かれた質問(O)とは,「どんな気持ちですか。」,「どんな考えですか。」,「どんなことがしたいですか。」,など対象者がいろいろな応え方ができる質問のことです。対象者によっては,どんな気持ちと言われても,表現しようがないという場合があります。そのような場合には選択肢を提示して,確認していきます。

是認(A)は相手の話の中で認められるもの,使えるもの,いいと思えるものを聴き返して確認していくことになります。本人ができるということを述べているときに聞き返していくような場合は,是認にあたります。

聞き返し(R)は動機づけ面接で最も使われます。先の例のように相手が使った言葉をそのまま聞き返したり,示唆された気持ちを聞き返す単純な聞き返し,相手の言っていることを極端に増強して聞き返したり,裏の意味を取って聞き返すといった戦略的に用いる聞き返しもあります。これらは自己動機づけ発言(チェンジトーク)を引き出すために用いられます。

要約(S)では,相手の話の中で使える部分を拾い上げていきます。これは,花束をつくるという比喩で表現されることも多いです。矛盾すること,もの及び行動,それらに対する態度や感情,キーポイント(うまくいった(ている),資源となるところ,を注意深く聴き,その中から1本1本 “花 ”を選んでいきます。その“花 ”をまとめて,温かく,共感的に,善悪の判断を差し控えて,相手に花束として提示します。矛盾を広げる場合は,その矛盾をそのまま並べます。相手の話を要約する際,面接者が対象者の言葉をできるだけそのまま使うようにしながら,何をまとめるかについては面接者が決めている形です。“花”の選び方は対象者が心の中で対立する感情を解消して実際の具体的な行動に移せるように,対象者の変化へのニーズやメリットを引き出しながら,対象者が変化したい方向とは矛盾をしている行動や考え方をしていることに気づいていけるようにまとめることがポイントです。

対象者が迷っている場合,変化することと変化しないことのプラス面とマイナス面を並べて点数化して評価していくといった決断分析をし,対象者本人に決定を促す。

動機づけ面接で重要なのは,対象者の反応をよく観察して見極め,どこに反応し,どこに反応しないのかということを状況に応じて効果的に選択し,対象者の変化へのニーズや変わることができるという見通しを強めていくことである。

(5)動機づけ面接のトレーニング

動機づけ面接は,実践の現場で使う技術です。個々の技術については反復して確認し,実際に使えるようにしていくしかありません。うまくやっている人の様子を見ながら観察学習をすることで,対象者の発言のどこに反応して,どこに反応しないのかということを学ぶこともできます。最も良いのは直接学習です。実際にやってみて対象者から得られた反応から学ぶことです。それまでのやり方を変えてみて,対象者の反応やその変化から,こう言えばいいのかといった手応えを得ることになります。

それまでの面接のやり方をいったん,横に置いて,別のやり方をわざわざやるのは容易ではありません。そのために,動機づけ面接のトレーニングでは動機づけ面接のやり方を学ぶ前に,故意に相手の抵抗を引き出すようなやり方をしてみるという負の練習を行うなど,多くのトレーニングメニューがあります。

(6)まとめ


人の行動がその人の価値観と結びついているということは,面接者の言い方一つで簡単に人が変化するわけではないことも意味します。動機づけ面接では,「家族」,「やさしさ」,「裕福さ」,「名声」などを書いたカードを並べ替えてもらい,対象者が大切にしている価値観を確認していくような作業を行うこともあります。さまざまな視覚的ツールを用いるのも動機づけ面接の特徴でもあります。対象者が間違った方向に行ったときに,無理やり面接者がもっていきたい方向にもっていくのではなく,対象者に寄り添いつつ,本人が本当に行きたい方向を探りながら,軌道修正していく援助をしていくのが動機づけ面接です。技術的なことだけができれば動機づけ面接ということではありません。

動機づけ面接は,面接者からの一方的な説諭や教示とは根本的に異なり,双方向性のあるものです。言い換えれば,面接者が変化を促し,対象者が変化を促されるというものではなく,お互いに刺激を与え合うプロセスを通じて学習し,お互いに変化するプロセスでもあります。

対象者が,面接者に話をして「自分で進むべき方向を決めた」と感じられ,そのやりとりやプロセスには面接者のさまざまな配慮や技術が含まれていることに対象者は気づかないで,変化への動機を引き出されるというのが動機づけ面接と言えます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました